虎年の獅子座 日記帳
Tora-Doshi'no Shishiza's Diary


店頭株式マーケットメイク制度に物申す! 執筆日 : 1999/02/06


 店頭株式市場改革の一環として、証券会社が値付けを担当するマーケットメイク制度が開始されました。店頭市場の値付け率の改善や流動性の向上などが期待されたのですが、実際に始まってみると、実はとんでもない制度ではないのか、と言う感じが強まってきました。
 マーケットメイク制度の理想は素晴らしいものがあるのですが、実際にどう機能していないのか、その一端をご紹介したいと思います。なお、これはあくまでも個人的な意見です。ご了承の上、お読みください。

● 店頭株式市場のマーケットメイク制度は、昨年(1998年)11月2日に日本証券業協会によって答申された「株式店頭市場の改革に向けて(報告書)」に基づくもので、本格的には今年に入ってからスタートしました。これまで、店頭株式は"店頭"と名前が付きながら、実際はJASDAQ端末上でオークション形式で取引されるのが普通でした。つまり、これを"擬似"取引所と見なして、通常の東証銘柄や大証銘柄のように、注文を指値で持って、それを買ったり売ったりする取引が中心だったわけです。

マーケットメイク概念図 ● ところが、この改革案で、JASDAQ端末を使ったこのような集中的な取引から、マーケットメイク方式へと変わったのです。全ての銘柄がそうなったわけではありませんが、部分的な銘柄がこの制度に移行しました。マーケットメイク方式とは、それを申し出た証券会社が常時売り/買いの気配と株数を公表し、その取引を相対で行う方式です。もともと店頭株式はこの取引方法が主体であるべきだったのですが、便宜上、これまではJASDAQ端末を使って"擬似"取引所的な取引が主流になっていたというわけです。

● なお、左図が日本証券業協会のパンフレットにあるマーケットメイク制度の概念図です。これまでと大きく違うのは、@一定の取引所的集中取引ではないので、同一銘柄で同一時刻に取引が成立しても、その価格が違う可能性があります。これは、相対取引であるために発生する可能性で、相対した証券会社によって、価格が違うことがあり得ます。そして、A相対取引であるがゆえ、投資家が望む値段がたとえ現在値として報道されていても、それが取引成立するとは限らない点、B値幅制限が課されないため、投資家がはっきりと価格について意思表示しない限り、とんでもない値段がつく可能性もある、という事です。

● 理論的には、店頭株式の取引は、その本来の"あるべき姿"に戻ったと言えるのですが、実は、この改革で色々と問題点が生じ始めたことも事実です。

● 証券会社にとっての問題点だけならともかく、利用者(顧客・投資家)サイドにとっても、かなり深刻な不便が生じ始めています。もちろん、この制度の責任者である日本証券業協会がそれを予測していなかったとは思いたくないのですが、実際に現場で仕事をしている私から見れば、現在までの所、改悪された部分ばかりが目に付き、何も改善されたところが見当たらないのが実情です。もう少しその詳細について書いてみたいと思います。

● マーケットメイク銘柄については、これまでの取引所的取引の概念がなくなりました。つまり「バイカイを見る」という概念が消失してしまったのです。マーケットメイカーは、常時売り買いの気配と数量を提示する義務があり、その範囲内であれば、取引を成立させる事になります。これは全て相対取引ですから、例えばある銘柄について500円買い気配1000株、505円売り気配1000株という気配を表示していれば、売りについては500円で1000株の取引を成立させる義務があります。しかし、ある顧客が500円で5000株売りたいとしても、とりあえず500円で1000株売りは成立しても、残りの4000株が500円で成立するかどうかは、マーケットメイカーの意思次第ということになります。もしかしたら、残りの4000株については、450円なら買っても良い、という気配しか出ないかもしれません。

● マーケットメイカーが他にあれば、そちらに電話して気配を確かめる必要が発生します。もちろん、各マーケットメイカーのベスト気配(売り買いともに)は、JASDAQ端末で確認することが出来ます。しかし、一般投資家にとっては、A社と口座があっても、B社と取引があるとは限らず、結構、難儀な事態になるのです。支店などで注文を出しても、その約定について知るのは相当時間がかかると予想されます。さらに、情報端末で表示されている値段では必ずしも約定できるとは限らないことから、取引執行そのものが厄介な手間隙と心配を伴うことになります。

● 一方、私達のようなマーケットメイカー以外の証券会社にとっては、顧客からの発注は一つであっても、その執行先は複数に渡る可能性があります。さらに、マーケットメイク銘柄はJASDAQ端末でバイカイや約定などを見る事が出来なくなったことで(マーケットメーカーの気配は見れる)、注文執行する際には、色々なマーケットメーカーにいちいち電話しなくてはいけなくなり、売り買いは相手側と"交渉"しなくてはいけなくなってしまったのです。

● そのため"計らい注文"などは事実上不可能になり、単純な指し値の売り買いを執行するにも、非常に大きな手間暇がかかるようになりました。いちいち業者が誰かを調べて、そこに電話しなくてはいけないし、さらに、約定入力なども手入力/管理を強いられる為です。当然、将来的には店頭株式の売買は、かなりコスト高になる可能性が強いと考えられます。厄介なことに、単純な指し値注文でも、A社で上値が入ったとしても(これは情報端末で見る事が出来る)、B社では売れるとは限らないし、相手側が「この値段で買うのは嫌」と言ってしまえば、どうしようもありません。

● 投資家側からすると、普通、上値が入れば売れたと判断するし、下値が入れば買えたと判断すると思います。ところが、マーケットメイク銘柄については、この原則が当てはまりません。当てはまらない事を理解している投資家ばかりであれば問題はないのですが、そうではないことが一般的な現状では、証券会社側としても、かなり気を使う必要があります。この誤解で、「何で俺の注文が売れてないんだ。おまえらが下手くそなおかげで、売れなかった」なんて事は十分発生しうる現象です。

● じゃあ"その注文のマーケットメイカーの気配に十分注意していれば良い"という事になるのですが、これは投資家側の要求としては当然です。しかし、証券会社側から見れば、"こんな手数料率でそこまで気を使ってられるかい。こんなの採算合わない"という事になります。

● ご存知の通り、上場銘柄の委託手数料自由化が遅れているせいで、店頭株式の委託手数料はかなりのディスカウント合戦になっています。標準手数料率の50%引きは当たり前、70%引きがどちらかと言えば"標準"になっていると思われます。これもトレーディングシステムに注文入力して、それの約定が出来ればシステムで返ってくるという手間隙の掛からない状況であって始めて成立するわけで、最低単位の指値の注文を注意深くウォッチして、色々なマーケットメイカーに電話して交渉して、などという状態では、到底採算が合わなくなります。そうすると、マーケットメイク銘柄については注文を断るか、手数料を高く設定して受けるか…という状態は、すぐにやってくると思います。つまり、投資家から見ると、取引のコストは上昇すると予想されるのです。

● また、マーケットメイク銘柄はJASDAQ端末でバイカイが見れなくなりました。これのおかげで、非常にトレーディングをしにくくなったのですが、これを"悪用"すれば、マーケットメイク宣言をすれば、かなり他社の邪魔を出来るようにも考えられるのです。極端な話、全銘柄をマーケットメイクすると宣言すれば、自分が店頭株式市場そのものになれます。日本店頭証券は仕事がなくなるでしょうし、他証券会社の使い勝手を悪くする事を目的とするならば、かなり有効な嫌がらせ戦略となります。だって、各社はその証券会社と口座を設定し、その証券会社に電話しないと、事実上、店頭株式の取引は出来ないことになってしまうからです。もちろん、店内で取引を成立させることは出来るのですが、それにも限界があります。

● マーケットメイカーには、売り買いの気配を常時提示する義務があるのですが、これにしても、値幅制限が無いという点を"悪用"して、とんでもない気配を提示すれば、取引そのものが成立しにくくなるでしょう。店頭株式市場は流動性を一気に失って存在価値が大きく失われてしまうでしょう。"悪用"しようとすれば、こんな恐ろしい事も出来てしまいます。制度上は、こういった"悪用"を防ぐ手段はありません。

● 正直言って、「よく、こんな制度を通したなぁ〜」と思います。さらに、こんなに制度がコロコロ変わる市場で、投資家が定着すると思っているのでしょうか?不思議でなりません。ビッグバンとは言うものの、投資家の使い勝手を悪くするような改革は、改悪とは呼ばないんでしょうか?まだ制度が始まったばかりで、それを批判するのはフェアではない、という気持ちはありますが、今回のマーケットメイク制度については、一個人投資家としても、かなり危機感を持っています。


● 本題とは少し違うのですが、マーケットコメントでも少し書いた件について、ここでも書いておきたいと思います。

● 店頭株式の価格/出来高情報って、リアルタイムではなくて、1分間隔で送信されていると言う事、ご存知でした?これは大元のJASDAQ(日本証券業協会)から情報ベンダーへの送信が毎分になっている事が原因で、このため、各情報ベンダーの取引に関する数字の中身は、必ずしも正確ではないという状況を生み出しています。中身とは、取引成立の価格/出来高情報の事です。もう少し具体的にご説明しましょう。

● JASDAQからの価格/出来高情報が毎分送信となっているため、同じ1分間に約定した結果は、最後の約定価格と合計の出来高がデータ送信されてしまいます。例えば500円で1000株、502円で1000株、505円で5000株と同じ1分間で約定したとします。本当の約定はこの通りですが、JASDAQからの送信は、なんと505円で7000株になってしまうのです!これは大変な問題です。しかも、Bloomberg、Reuters、QUICKなどすべてがこのように表示されてしまう為、もし顧客が「おまえ、間違った約定通して俺を騙そうとしたやろ!」と文句の電話を掛けてきても、普通はこれらの情報端末を信じてしまい、証券会社側では「???」状態になってしまうのです。さらに、VWAP値などもこういったデータをもとに計算されているため、当然誤差が生じます。これまでも信頼性については疑いを持つ必要があったんです。気を付けましょう!!

関連ホームページ  日本証券業協会

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