虎年の獅子座 日記帳
Tora-Doshi'no Shishiza's Diary
株式委託手数料の自由化迫る、いよいよ戦国時代!
執筆日 : 1999/01/16
| 今朝の日経新聞(1月16日)に、"大蔵省は、株式委託手数料の完全自由化を今年10月1日から実施する方針を固めた"と掲載されました。 実は、株式の委託手数料については、すでに今年中の完全自由化の方針は決まっているのですが、その時期については、当初は「4月1日から…」と言われていたものの、収入減を懸念する証券界や事務手続き上の問題や、代理売買手数料の問題を抱える信託銀行の反対で、「年末実施かなぁ〜」という雰囲気になってしまっていました。 株式委託手数料完全自由化のインパクトについては、すでに色々な調査機関などからレポートが出ていますので、詳細はそちらにまかせたいと思います。今回は、私個人的な考えや見方、インパクトなどを、つらづらと書いてみたいと思います。 |
● 株式の委託手数料については、既に段階的に部分自由化されており、98年4月1日からは、一銘柄あたりの売買代金が5000万円超の部分について、完全に自由化されました。これについては、当時、この「虎年の獅子座 日記帳」でも"株式売買委託手数料5000万円超部分が自由化、その後…"と題して取り上げました。当時の詳細については、そちらを参照していただくとして、その後の株式市場の動きについて、少しおさらいしてみたいと思います。
● 前回の日記帳でも書いたのですが、"5000万円超が自由化"されたことは、国内法人取引において、"5000万円超部分の手数料はゼロ円になった"という事につながりました。つまり、株式委託手数料は27万2500円で打ち切りとなり、いくら売買代金が大きくても(多少の例外はある)、証券会社側の収入としてはこれ以上増えない構造になってしまいました。さらに、信託銀行が事務を行う取引(特金、投資顧問のファンド、信託銀行の自主運用分)など、現在の国内金融機関の取引の殆どにおいては、信託銀行がこの手数料のうち20%を代理売買手数料として徴収するため、証券会社側の手数料身入りとしては21万8000円が上限になってしまったのです。
● この手数料体系はかなり歪んだものになってしまい、一気に手数料体系を完全自由化しなかった弊害でした。部分自由化すると、当然そこまでディスカウントしても採算が合うと思える規模の取引をしている証券会社は、「駄目でもともと・・・」とディスカウントを打ち出してきます。例えば、一銘柄1億円の取引なんて、個人投資家ではほとんどありません。殆どが金融法人か事業法人(含む投信)です。ところが、色々な理由でこういった法人取引が殆ど無いような証券会社であれば、「5000万円超部分はゼロです。ぜひ、うちと取引してください!」と打ち出しても、ほとんど失うものはありません。口座が取れれば、それが全て新規取引になるのですから…。
● 一方、これに対抗する証券会社側(外資系や大手証券など、法人取引主体の証券会社)にしても、その部分だけで考えると赤字だったとしても、全体の体系が部分自由化だと「何とかなる…」という面があります。そのため、結局はほとんどの証券会社が5000万円超部分をゼロにする方針を打ち出し、自由化とは言え、殆どの証券会社が再び同じような手数料体系で進むことになってしまいました。もし、最初から完全に自由化していたのであれば、証券会社側は提供できるサービス、信用などと手数料体系の採算度合いを考えた上で、顧客と手数料率を交渉することになります。"売り"をたくさん持っている証券会社は、当然それなりのことを要求できますし、逆に"売り"が無いところは、手数料の安さを"売り"にする必要が出てきます。これが本当の自由競争というものですし、証券会社側にも顧客側にも、横並びで物事を見る余裕はなくなり、経営を真正面から捉える必要と訓練になったと思います。部分自由化で得たものは、証券会社側から見れば、しんどくなった収益と相変わらずの横並び経営でした。
● この歪んでしまった手数料体系を、今度の"やっと実現する"完全自由化で是正できるかどうかについて、個人的にはあまり自信がありません。一度下げたものを上げるのは、非常に難しいと思うからです。もっと具体的に話をしましょう。完全自由化になって以来、かなり採算割れの可能性の強い売買代金10億円程度の取引について考えてみると、これまでは顧客の支払う手数料は27万2500円でした。これを是正すると言うことは、当然、手数料額を引き上げることになります。以前の手数料体系であれば、軽々と100万円を超える手数料になります。これを約半分にディスカウントしても、これまでに支払ってきた手数料の倍。これが顧客側に受け入れられるかどうかについては、かなり疑問な点があります。という事は、今後の"完全自由化"手数料体系においては、基本的に現在の水準と同じか、もしくは引き下げの方向で戦いが進む可能性が強いと思われるのです。
● 特に、指値注文や単なる成行注文(俗に言うエージェンシー注文)については、どこの証券会社に出しても、大したサービスの差はありません。というか、証券会社側から見ても、サービスの差の付けようがない、というのが本当のところです。取引所に顧客から言われたとおり出すだけなら、当然、そのサービス代(委託手数料)は安くならざるを得ないと思います。一方、決め商いやバスケット・トレーディング、そして仕組み取引など、それなりの技術と信用がないと出来ないような商売については、エージェンシー注文とは違った手数料体系になってくる可能性が考えられます。もちろん、そこに行きつくには、数年というような月日がかかるとは思いますが…(^_^;)。この戦国時代のなかで、当然、敗れ去る向きも出てくるでしょう。早ければ1年もたないと思います。業界全体、そして日本の金融界全体として"覚悟"が必要だと考えています。
● もっと別の面から、委託手数料完全自由化のインパクトを考えて見ましょう。これまで、全顧客に対して手数料率は同じという前提で証券会社のシステムは組み上げられていますし、信託銀行のシステムも同様です。これが手数料完全自由化に伴い、全ての顧客が別々の手数料体系になる可能性があり、さらに同一顧客であっても、取引内容によって手数料率が異なる可能性が出てきたのです。
● 私達のような外資系証券は、これまでも外国人投資家と取引する際は、個別に手数料率を交渉してやってきましたし、同一顧客であっても、まとまった注文であれば、当該注文に対してだけ手数料率をディスカウントするケースもありました。当然、システム的にもそれに対応するように作ってあるし、日本では"たまたま"全顧客の手数料テーブルが同じだった、という事でやってきました。
● しかし、国内既存の証券会社や信託銀行では、もともとのシステムがそういうように作ってないのです(これまでは必要なかった)。データベースとしても、顧客別に手数料テーブルを持たせるとなれば、そして時にはそれに当てはまらない取引も入ってくるとなれば、これは大問題です。システム構築上の前提が根本からひっくり返り、修正作業をやるよりも、新しく最初からシステムを作りなおしたほうが良いくらいかもしれません。
● 当然、こういった設備投資には資金が必要です。対応が出来るかどうかで、また新たな選別が行われる訳です(敗者は当然退場ということになる)。どう考えても、現在の証券市場を取り巻く環境のなかで"余裕"のある証券会社はないと思います。つまり、何とかして資金をひねり出す必要が出てきており、その対応に残された時間はもう9ヶ月しかないのです。2000年問題への対応もあるでしょうし、本当に色々な意味で生き残りをかけた戦国時代になってきました。本当ならば、生き残るだけでは駄目なんですけどねぇ〜(^_^;)。
● 一方で、個人投資家向けなどの手数料体系はどうなるでしょうか?多少の時間は掛かるかもしれませんが、これまでの通常の証券会社では、現在の手数料率では採算が合わなくなってくると思います。人件費があまりにも高く、それに見合った手数料収入が得られないからです。以前は、マーケットも良かったし、超高速回転売買をやっていても、顧客が儲かっている限り、あまり文句は言われなかった面がありました。"手数料500万円、客の利益50万円"なんてことはザラでした。しかし、もう一度バブルでも来ない限り(阪神タイガース優勝と同じで、これはかなり可能性薄)、こういった取引手法が許されるような状況ではないし、実際にこんなやり方をやれば、訴訟の嵐が吹くでしょう。
● という事は、手数料率を上げるか、それもと人件費などの固定費を究極まで下げて、その分低手数料率で薄利多売の商売をするかどうかになります。既に何年も前から分かっていたことですが、国内証券会社の多くは存亡の時を迎える事になると思います。大量の営業マンを抱えて、全国津々浦々に支店を展開してビジネスするなら、それに見合う収益が上がらないとやっている意味は無くなります。一方で、ディスカウント・ブローカーをやるにしても、既存の証券会社を生まれ変わらせるよりも、全く新規に会社を立ち上げたほうが遥かに楽です。これが難儀なところでもあります。
● 今回の措置には、銀行系証券への株式取り扱いの解禁も含まれています。当然、彼らは法人取引主体の営業を行うでしょうし、上記で言う「失うものはない」という攻めの姿勢になると思われます。私個人の経験から言っても、法人取引はそんなに収益的に楽しみのある商売ではありません。そういった中で、どう攻めてくるのか、アイディア勝負と体力勝負の両方が鍵になります。
● これまで外資系企業に良いようにやられてきた邦銀が、子会社とは言え戦略的な部門でもって、どのように攻めてくるのか楽しみです。ここで成功できないようであれば、日本の金融市場は本当にウィンブルドンと化してしまうでしょうし、それを取り返すとしても、何年ではなく、何十年という月日が必要になってしまうでしょう。証券界だけでなく、金融界で働いている方々は、今、まさにそういった岐路に立っているという自覚が必要だと思います。
● つらづら書いたので、ぜんぜんまとまりがありませんでした。長文を読んでくださった方々、ありがとうございます。
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