虎年の獅子座 日記帳
Tora-Doshi'no Shishiza's Diary
取引所集中義務撤廃-委託手数料ゼロ円?
執筆日 : 1998/11/28
| 来る12月1日から、株式市場を取り巻く数々の規制が撤廃され、取引ルールも一変します。細かいものまで併せれば、あまりにも多すぎて、証券各社の対応もかなりドタバタしている様子(^_^;)。 これら規制緩和の一つが、これまで厳密に管理されていた取引所集中義務の撤廃です。「一物一価」という原則に沿う必要性から、これまでは、株式取引は取引所に集中させることが証券会社に義務付けられていました。12月1日からは、これが無くなります。顧客と取引所を通さずに取引することが可能になります。ところが、取引所を通さなくてすむため、委託手数料率を決めていた取引所準則の外側で取引が行われる可能性が出てきて、場合によっては「株式委託手数料がゼロ円」などという、とんでもない事態が発生する可能性も出てきました。 今、株式市場と証券会社、そして顧客の間に何が起ころうとしているのか、書いて行きたいと思います。 |
● まず論点を整理してみましょう。証券ビッグバンの一つとして、12月1日から、取引所集中義務が撤廃されます。これまでは、上場株式に伴う取引は、全てを証券取引所にて行うことが義務付けられていたのです(ほんの少しの例外はある)。これにより、全ての証券会社に委託された売り買いの注文は、証券取引所にて、"価格優先/時間優先"の原則の基で執行されていました。
● ところが、昨年6月の証券取引審議会総合部会において「市場間競争を促進させるためには、取引所集中義務を撤廃することが必要」との提言が行われ、今回の市場集中義務撤廃へと進むことになりました。これまでは、株券などの取引については、証券取引所で行うことが義務付けられていたのですが、12月1日からは、これを取引所外で行うことが認められたのです。もちろん、取引所外だからといって"何でもあり"というわけではなく、証取法などを遵守する義務はあります。さらに、取引所外での取引については、「取引成立後5分以内に日本証券業協会に報告」する義務が生じます。
● 取引所外取引については、まだまだ話題にしたいことはあるのですが、詳細については、日本証券業協会のホームページを参照していただくことにしたいと思います。今回、私が話題にしたいのは、取引所外取引における委託手数料の扱いについてです。それでは本論に入りたいと思います。
● 株券などの売買に伴う委託手数料率については、証取法に基づいて、取引所準則によって定められています。いわゆる手数料テーブルは、証券取引所が会員証券などに対して定めているものです。ところが、取引所外取引においては、取引は証券取引所を経由しないために、当然、この取引所準則の縛りから外れることになります。ついこの間までは、それでもこのテーブルの縛りがあるとの理解が一般的でしたが、去る11月19日に日本証券業協会による証券会社への説明会があり、その場で、「取引所外取引においては、証券取引所の定める手数料テーブルを適用する必要はない」旨が明らかにされました。
● これで驚いたのは、証券会社だけではありませんでした。12月1日の実施をわずか1週間半後に控えて、取引所外取引においては、一気に事実上の委託手数料自由化を迎えてしまったのです。証券ビッグバン第2段を控えていたことは皆が知っていたと思いますが、「委託手数料の自由化は来年末のこと」と多くの証券界が考えていたところが、取引所外取引という限られた分野とは言え、一気に全面自由化となってしまったのです。
● それでは、事実上の"委託手数料自由化"が何を意味するか、考えて行きたいと思います。
● まず、頭に浮かぶことは、委託手数料テーブルが適用されないとなると、手数料ディスカウントが始まるという可能性についてです。現在の手数料率に対して、30%引、50%引、70%引というふうにディスカウント合戦が進み、いずれは「委託手数料ゼロ」と宣伝する証券会社が出てくる可能性も否定できません。ところが、証券会社も営利企業ですから、収入ゼロでは食っていくことができません。そのため、「委託手数料ゼロ」とは言いながら、委託手数料分は、何らかの形で価格に織り込むことで、表面上の委託手数料ゼロを標榜することは、実は簡単なのです。本当に手数料分がゼロ円なのではなくて、手数料をこれまでのように別枠徴収するのではなくて、それを価格に織り込んでしまうわけです。つまり、消費を内税方式で徴収するのに似ている訳です。
● これまでも、外国人投資家相手(オフショアアカウント)の商売では、ネット取引と言って、価格に委託手数料などを織り込んだ値段で取引することが通常でした。つまり、1000円で顧客が株を買ったとすると、受渡価格は1002円という格好になるわけです。そうすると、顧客側としては、ある銘柄の取引をする(買いと仮定)場合、ネットで1002円という提示をした証券会社と、グロス(手数料を含まない形で)で1000円、手数料率は約定代金×0.15%と提示した証券会社を、何らかの形で比較する必要があるわけです。上記の例であれば、両方ともネット価格で比較すると、前者が1002.00円、後者が1001.50円という事になり、後者の方が実際は価格が安いということになります。
● これは実は海外市場では日常的に行われていることで、珍しくも何ともありません。投資家は、各社のオファーする提示方法に従ってコストを比較対象し、その結果で最適実行する必要があるのです。ところが、日本ではこのやり方になれているとは言えません。取引所外取引という堰を開放したために、一気に順応する能力が必要になったという訳です。
● さて、擬似"委託手数料ゼロ円"というネット価格が広がりを見せると仮定すると、どういった影響が出るかについて考えてみたいと思います。実は、現時点では、かなり不透明な部分が多く残っていて、実際にネット価格での取引が拡大するかは全くもって不透明なのです。それについて書いていきます。
● たとえ擬似だとしても"委託手数料ゼロ円"でネット価格で取引をすれば、表面上は委託手数料が発生しないため、この委託手数料にかかっていた消費税もゼロ円になります。これは、ていの良い"節税"行為(ストレートに脱税かもしれない)と受け取られる可能性があり、これを国税当局が認めるかどうかは、現時点では全く不透明です。
● また、信託銀行が事務を取り扱うファンドの取引においては、これまでは委託手数料の20%を"代理売買手数料"として、信託銀行が受け取っていました。顧客(委託者)は100%の手数料を支払いますが、そのうち20%が信託銀行、80%が証券会社という構図だったのです。ところが、"委託手数料がゼロ円"ということになると、証券会社は当該株券のプライスに手数料分を織り込んでいるから、ひとまずOKとしても、信託銀行には1円も行かなくなります。これは、かなり信託銀行の収入にとってはダメージになる可能性があります。信託銀行自身が運用を行っている年金やファントラに加えて、特金や投資顧問会社のファンドがこれに該当します。つまり、大部分の機関投資家の注文が該当するのです。
● また、"委託手数料がゼロ円"ということを表明して取引を獲得した場合、実際には価格に織り込んで取引を成立させたとしても、表面上は「ただでサービスを提供した」と受け取られる事も考えられます。これは、公正取引委員会などから見た場合、不当廉売に該当する、と解釈されかねません。かつて「1円入札」が話題になったことがありましたが、これと同様の事態に陥る可能性があるのです。
● 一方、11月19日の日本証券業協会の説明会では、「委託手数料を取り過ぎたとして、公正取引委員会などから指摘を受ける可能性がある」と逆の可能性についても指摘がありました。つまり、ネット価格で取引した場合、"みなし委託手数料"は「基準となった株価と実際に約定した株価の差」と受け取られる可能性があるというのです。通常の取引においては、マーケットインパクトという要素があります。例えば、買いに行けば現在値よりも上値を買う必要がある場合が多く、逆もしかりです。さらに機関投資家のように大きなロットを売り買いする場合、取引所取引の流動性が乏しければ、その分だけマーケットインパクトを織り込んだプライシングをするのは当然のことです。しかし、マーケットインパクトへの考慮なくして、基準値(現在値)と約定価格との差を単純に"みなし委託手数料"とされて、それについて指摘を受けては、たまったものではありません。
● さらに厄介なのは、証券会社側や信託銀行側のシステム対応が到底間に合わないという事実。上記でも書いたとおり、11月19日に日本証券業協会が説明会を開いた時点で、12月1日の実施まではわずか1週間半。これでは、事実上の全面自由化手数料体系に対応が間に合うはずはありません。取引所外取引は、事実上の委託手数料完全自由化ですから、顧客によって手数料の決め方は統一されたものではなくなります。証券会社側から見れば、顧客別に(場合によっては取引別に)別々の手数料テーブルが存在する可能性がありますし、事務を担当する信託会社などでは、それこそ万単位でテーブルが存在する可能性が出てきます。もちろん、将来的には委託手数料が完全自由化されることは予想されていましたので、いずれこうなるとは分かっていました。しかし、来年末と考えていたのが、わずか1週間半後という事になると、「そんなの聞いてないよぉ!」という事になるのです。
● 証券会社と信託銀行を結ぶオンライン約定システムに「ファースト」システムがあります。これが導入されたおかげで、証券会社側も信託銀行側も、事務処理コストを格段に押さえることが可能になりました。ファーストが導入されてから、それぞれの部署で、手作業の約定案内をやっていた時代からすれば、大幅に人員が少なくなっていると思います。今更手作業に戻れと言われても、戻れないところまで合理化してしまったのが、実情ではないでしょうか。
● また、もう一つ厄介な問題があります。それはクレジット(信用リスク)の問題です。取引所外取引では、受渡が完了する4日目までの間、証券会社側も顧客側も、お互いに信用リスクを抱える事になります。証券会社側も顧客側も、取引できたと思っていたものが、相手側の破綻などで反故になることは絶対に避けたい事態です。現在、多くの国内証券はクレジットの問題を抱えているのが事実です。このクレジットの問題が、機関投資家側からの証券会社選別に拍車を掛けることは、明白です。また逆に、証券会社側も、いいかげんな顧客との付き合いを無理してやる必要はない、という選別思考を持つ必要があります。訳の分からない仕手筋と取引所外取引をするなんて、自殺行為でしかないという認識が必要でしょうね。
● 上記の問題とは違った意味で、解釈が分かれているのが、「何時までの取引を当日の約定として扱うか?」という問題です。これまでは、取引所取引(立会外取引を含めて)ばかりだったので、当日の約定については、特に考える必要も無かったのですが、取引所外取引が始まると、"取引時間"という概念が崩壊します。その気になれば、午後5時でも、午後6時でも、午後10時でも取引当事者が合意している限り、取引は可能です。ところが、証券会社もシステムが走っている都合上、どこかで線引きする必要性もあるのです。この線引き時間というのがまだ固まっておらず、場合によっては、"A証券では午後6時の取引は翌日扱い、B証券では当日扱い"といった事態も考えられるのです。現在、私達の間では、日本証券業協会に5分以内に報告する、という義務がある限り、日本証券業協会のJASDAQ端末がオフラインになるのが午後5時なので、これが一応の線引きになるかな、とは考えています。でも、これも確実なことではないのです。
● という訳で、12月1日からのビッグバン第2段としての取引所外取引については、「規制が外れるのは素晴らしいことだし、歓迎する。しかし、実際にローンチして稼動するには、まだ大分時間がかかる」と言うのが、私の個人的な見方です。ビッグバンに突き進んで規制緩和するのは良いのですが、実際に規制緩和を受けてマーケットが発足できるように準備しておかないと、流動性を持たないマーケットが乱立することになります。せっかく良い枠組みを作っても、だれも利用しなければ、宝の持ち腐れです。第二店頭市場なんてその典型ではないでしょうか?官主導ではなく、民主導に提案して、それを実施する規制緩和が必要に思えてなりません。
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