虎年の獅子座 日記帳
Tora-Doshi'no Shishiza's Diary
持ち合い解消は株価下落圧力ではない?
執筆日 : 1998/11/03
| 今日(11月3日)の日経新聞有名コラム"大機小機"に「持ち合い解消は株価を下げない」と題する文章が掲載されました。持ち合いと持ち合い解消は、理論的な一株当たりの価値を左右するものではない、との論点から、一部で提言されている"持ち合い解消受け皿機関"に反対する立場を明確にする主張でした。 私も実は"持ち合い解消受け皿機関"構想には反対です。効果が見込めないし、公的承認のもとでの"飛ばし"取引には胡散臭さを感じるからです。しかし、きょうの"大機小機"には、多少言いたいこともあり、それをつらづら書いて行きたいと思います。 |
● 最近の相場では、明確な売り手として株式持ち合い解消があります。現在の株式市場の低迷を一つの理由で解説するのは無理だと思いますが、例えば10個の理由を挙げるとすれば、そのうちの一つには、法人間の株式持ち合い解消売りが出てくるのは間違いないと思っています。
● 株式市場の売り手としては、ヘッジファンドの売り崩しなどがマスコミで大きく報道され、宮沢蔵相も長銀(8303)が事実上の破綻へと追い込まれたのは、ヘッジファンドの売りのように発言しています。しかし、宮沢蔵相は以前からそうですが、大蔵省出身でマーケットに精通していると思われる割には、どうも焦点ボケ発言しか出てこないし、実際の政策も焦点ボケばかりです。ヘッジファンドがそんなに万能な存在ならば、ヘッジファンドがいつも成功するはずで、昨今のヘッジファンド問題など発生する訳がありません(^_^;)。さらに言えば、売りから入った投資家は、いずれどこかで買い戻す必要があります。一方で、株式の持ち合い解消に伴う売りは、「売り切り」の売りで、この先少なくとも数年は絶対に買いに来ない(多分、10年、20年経たないと…)類のものです。
● 一方、今日(11月3日)の日経新聞有名コラム"大機小機"では、複眼氏は一株当たりの価値から現在価値に引きなおした株価は、持ち合いが進もうとも、持ち合い解消が進もうとも一切変化はなく、株価には変化が出ないと主張しています。さらに「持ち合いは持ち合いの無い場合に比べ、互いに株の発行数を増やすことが多いので、発行株式の時価総額は増える」とし、「それでも流通株式の時価総額は変わらない」としている。
● 理論的には、持ち合いがあろうともなかろうとも、株式の一株当たりの利益は変わりません。これは、株式の一株当たりの価値は、<利益÷発行済み株式数>という式で表されるものであるため、業績が一定であると仮定すると、発行済み株式数が変化しない限り、これは常に正当だからなのです。また、「持ち合いは持ち合いの無い場合に比べ、互いに株の発行数を増やすことが多い」との主張については、これも経験則からみて正当です。もっとも、これが現在の苦境の元になっているのですけど(^_^;)。
● ただ、株価は理論的な株式の価値からだけで決まるのではありません。株価の大きな決定要因の一つは、需給関係です。個人的には、株価決定要因の半分近くは、需給要因だとさえ考えています。複眼氏はこの点を見落としているというよりも、わざと議論から遠ざけているような印象を受けます。
● 上記の複眼氏の主張の後半部分の「それでも流通株式の時価総額は変わらない」については、私はかなり違和感を感じてしまいます。時価総額というのは、<株価×(発行済み)株式数>で計算されます。"流通株式の"という断りを入れるからには、株数部分については、<発行済み株式数−持ち合いされている株式数>との意味合いがあると思われますが、ここに問題があります。
● つまり、この"流通株式"というのが、現在、持ち合い解消が加速度的に進行していることで、大きく増えているのです。式で表してみましょう。
流通部分の時価総額=株価×(発行済み株式数-持ち合い株式数)
の()内部分のうち、持ち合い株式数が減少することで、()内全体が増加しているのが現在の状況です。複眼氏の主張するように、流通部分の時価総額を一定と仮定すると、()の増加に見合う格好で株価が下落せざるを得なくなります。
● さらに重要なのは、この流通部分の時価総額が一定だと仮定しても、持ち合い解消売りが出てくると、株価が押し下げられてしまい、流通部分以外の時価総額も下がってしまう事です(下式参照)。
当該銘柄全体の時価総額(↓)=株価(↓)×発行済み株式数(→)
マーケットの価値というのは、これら個々の銘柄の時価総額を合計したものですから、大きな意味でマーケット全体が押し下げられてしまうことになるわけです。これが現在の株式市場の抱える"持ち合い解消"に伴う相場低迷の大きな要因だと考えています。
● 毎日株式市場に面と向かっている私の経験から言えば、ヘッジファンドの売りは過激かもしれないが、非常に一時的な瞬間風速的な売り方です。つむじ風的とでも言いましょうか。一方で、持ち合い解消売りは相場の状況にあまり左右されずに、継続的に売り物が出てきます。そのため、1日だけを取ってみれば、その売りに気付かない事も多いと思います。こちらは、梅雨か秋雨という感じでしょうか。
● そして、今年8月後半以降に株式市場の下げトレンドが一段と明確になり、さらに回復の可能性が遠のくにつれ、持ち合い解消売りは一段とやっかいな方向に進んだ気がします。つまり、ある企業が貸し渋り対策の一環として、資産売却(要するに保有株売却)で、ある一定のキャッシュを獲得するとの目標を立てたとします。この場合、株価水準が下がれば下がるほど、売却で得られる金額は目減ります。しかし"予算"というものがある限り、得られる金額を減らす訳には行かない場合もあり、その場合は「株価下落に従って売却株数を増加させる」というエグイ状況が発生するのです。つまり、株価が下落すればするほど、売り圧力は強まるという訳です。一人の投資家だけがそうしているのであれば、マーケット全体への影響は無視できます。しかし、かなりの数の国内法人が似たり寄ったりの事をすれば、この影響は無視できません。これは机上の理論ではなくて、実際に私が毎日の経験で目の当たりにしている事です。
● ただ、リード部分でも書いた通り、私は持ち合い株式を回避するために受け皿機関を作るという政策提言については反対です。ある有価証券を簿価で別勘定に移すというのは、"飛ばし"取引そのものです。さらに、評価損状態の持ち合い株式を別勘定にすることで、その評価損発生を回避するというのは、簿外取引に損を"飛ばす"という行為そのものです。山一證券は、これをやって破綻したのです。
● この"飛ばし"取引を国策として推進したとしたら、世界の投資家(国内も含む)はそれを見逃しません。必ずその不透明な取引を織り込んだ株価を付けて来ます。むしろ、不透明な分だけディスカウントになる可能性が強いと思っています。つまり、現状よりも株価的には悪化する可能性が高いと考えられます。都銀のほとんどが現在は原価法を採用しています。しかし、現在の株価は評価損を織り込んだ価格から動かず、市場から見る限りでは、会計上どんな処理をしようとも低価法で見ているわけです。これと同じ事が起こる可能性は強いと思います。
● じゃあ、どうすれば良いか?株式持合いを前提として膨らみすぎた発行済み株式数を減らすしかない、と考えています。その一つのやり方は、自社株買いとその消却です。これはある程度キャッシュを保有する企業しか出来ませんが、それはそれで良いと思います。その余裕がない企業は、株価で苦しむべきです。過去のポリシーのない株式発行で、市場から資金をふんだくった訳ですから、その報いは当然の事でしょう。必要もないのに、バブル期に安易な資金調達をした報いです。
● 今後は、きちんと将来の収益性を考えた上で、適正な発行済み株式数と流通株式数のバランスを考えた財務戦略を取らざるを得なくなると思います。現在は確かに苦しいのですが、マーケットとして、これは正しい方向に進んでいると思います。
● それとともに、株式などの発行だけで資金調達するのではなく、事業債などの資金調達市場をもっと整備することが必要だとも思います。これは国がやるべき仕事ですし、何十兆円もの資金を投入せずに出来るはずです。目先的な麻薬的快楽的な持ち合い解消受け皿会社構想や商品券構想よりも、遥かにまともで認知される政策提言だと考えます。もちろん、簡単ではありません。でも、どうせやるなら今でしょう。皆さんはいかがお考えですか?
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