虎年の獅子座 日記帳
Tora-Doshi'no Shishiza's Diary
株式空売り規制強化、1週間経過後…
執筆日 : 1998/11/01
| 政府肝いりの"株価対策"として、株式空売り規制強化が前倒しで実施(本来の実施予定は今年12月からだった)されました。すったもんだの末、金融再生法案と一緒に国会を通過し、10月13日の官報に掲載、施行されたのが10月23日。空売り規制のもとでちょうど1週間の相場が経過しました。 何がどう変わって、相場として何か変化があったかどうか、毎日相場と直面している立場から、つらづらと書いてみたいと思います。 |
● 今回の空売り規制の主だった目的は、空売りとそれに伴う売り崩しを規制しようというルールの設定です。空売りはこれまで事実上野放し状態だったと考えていらっしゃる方々が多いかもしれませんが、実は、この規制実施前にもちゃんとした規制があり、私達証券会社側は、空売りするたびに、取引所に"空売り申請書"なるものの報告が義務付けられていました。ただ、顧客勘定については、明らかな空売り(本当に株券を持たずに売り)の場合はまれでした。つまり、大部分が、どこかで調達した借株を売る、というのが英語でいう"Short Sale"で、これは以前の規制では"空売り"と見なされないものだったのです。
● 今回の規制強化では、"目玉"として、借りてきた株を売る行為を正式に"空売り"として認定し、"空売り"の場合、直近の値段より下値では売ってはいけないという"アップティックルール"が適用されることになりました。また、"空売り"の報告/申告義務は、証券会社側だけではなく、発注する顧客側についても、委託する証券会社に申告する義務が明記されることとなりました。ちなみに、違反は30万円以下の罰金です(^_^;)。
● まず"空売り"の定義ですが、これまで通り (1)株券を保有せずに売ること、に加えて (2)借りてきた株券を売ること、 (3)所有権を所持していても、貸し出しているなどで手元にない株券を売ること、などが定義されました。他にも法律用語的にはいろいろとあるのですが、事実上、とにかく本券/信用取引でない売りは、ほとんどが"空売り"と認定される結果となったのです。
● 次いで"空売り"の際に適用される新しいルールの"アップティックルール"ですが、これは日本ではNewでも、米国などではすでに広く使われている取引ルールの一つです。簡単に説明しましょう。下図をご覧下さい。ある銘柄の値動きと、どこでなら空売りがOKか、どこでなら不可かを示しています。
| 時刻 | 株価 | ティック | 左の株価とティックの時に執行できる注文… |
| 10:25 | 525 | ↑ | 指値525円以上での空売りはOK。524円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:26 | 526 | ↑ | 指値526円以上での空売りはOK。525円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:26 | 525 | ↓ | 指値525円以上での空売りはOK。524円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:26 | 523 | ↓ | 指値523円以上での空売りはOK。524円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:27 | 524 | ↑ | 指値524円以上での空売りはOK。523円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:28 | 523 | ↓ | 指値523円以上での空売りはOK。522円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:29 | 528 | ↑ | 指値528円以上での空売りはOK。527円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:30 | 530 | ↑ | 指値530円以上での空売りはOK。529円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:31 | 533 | ↑ | 指値533円以上での空売りはOK。532円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:31 | 535 | ↑ | 指値535円以上での空売りはOK。534円以下を空売りするのは不可。 |
| 10:32 | 530 | ↓ | 指値530円以上での空売りはOK。529円以下を空売りするのは不可。 |
● つまり、常に現在値とその直前の値段を確認しつつ、指値の注文を出す必要があるわけです。成り行き注文は、ほとんど不可能ですし、寄り付きの注文も前日比がマイナスになるところでは執行できません。激しく動く銘柄については、本当に売りたい場合は、非常に煩雑に指値を変えるか、諦めてアップティックを待つしかありません。つまり、空売り注文は執行されにくくなり、下値をつけるような売り方は出来ません。つまり、空売りという売り注文だけに限定して言えば、株価下落の圧力は排除できることになります。
● ここまでが新規ルールの説明です。実際の現場においては、どうでしょうか?実際問題、空売りは全注文量の中でほんの少ししかありません。借株を含めているので、以前の定義よりは多くなりますが、それでも最大限見積もってもせいぜい20%程度が良いところでしょうか?外国人投資家の注文に空売りが多いように思われますが、以前からそうですが、株価下落を狙うような売り方をされる銘柄は限定されています。それ以外の銘柄については、明らかに本券売りの方が多いのです。
● さらに厄介なことに、借株かどうかを申告する義務はあるものの、正直言って顧客が本当のことを申告しているのかどうか、確かめ様が無いのも事実です。特に海外顧客の場合、この法律が適用されるのはあくまでも日本国内。海外顧客が日本に拠点を持つ証券会社(外資系証券も含む)に注文を出す際には、申告義務があるのですが、もともとの注文が海外のどこかで出され、それが何回か業者を経由して日本に来た場合は、もうお手上げです。遡って確かめるのはほとんど不可能ですし、これは証券監視委員会にしても、同じ事です。捜査権限を振りかざしたとしても、出来ることは限られています。つまり、顧客が悪意で空売りの実態を隠そうとすれば、それは可能なんです。
● また、今回の規制では、裁定取引や立会外取引は、空売り規制の対象外となっています。つまり、裁定取引として先物やオプションと一緒に執行すれば、アップティックルールは適用されません(報告義務はあります)。この辺は、理屈が通ってはいるのですが、どうも片手落ちの感じも否定できません。NYSEなどでは、指数急落時には、裁定取引にアップティックルールを適用することにより、乱高下を防ぐ手立てをしています。日本では、この部分のルールがありません。もともと私は個人的に"空売り規制"が"株価対策"になるとは思っていませんが、それにしても中途半端な規制の印象が拭えません。
● 実際に1週間が経過して、何か違いを感じたかと言われれば…実は感じています。「証券会社の日計りディーラーが、一斉に現物から手を引いたな」という印象です。これまでは、彼らがチャカチャカと動くことによって、ほんの一時的ですが、下げが加速する銘柄がかなりありました。これがぐっと減った印象があります。ただ、その分だけ流動性が一段と落ちてしまい、私達のように法人取引主体の外資系証券にとっては、日々の取引が非常にやりにくくなったことも事実です。
● なぜ証券会社の日計りディーラーが空売り規制で動きにくくなったのか、不思議に感じる方もいらっしゃるかもしれません。昨今の"実績給"制度のはやりで、最近の多くのディーラーは、売買益が給料やボーナスに直結するシステムになりつつあります。これは大手証券よりも、中堅証券で多い傾向です。そのため、ディーラー連中は売買益を稼ぐことを第一目標にして(当然!)、売りから入るのです。正直言って、売りから入るほうが儲かりやすいのが現在の相場。当然、持っていない銘柄を売るわけですから、空売りになるのです。その空売りがやりにくくなった為に、彼らが一斉に手控えてしまったという印象があります。
● 上記で、日々の私達の取引がやりにくくなったと書きましたが、これには空売りは必ず買い戻しが入ってくるという特性が大きく関係しています。特に、空売りは株価が下がれば儲かるので、株価下落時にかなり下支え効果を発揮してくれます。ところが、もともとの空売りが減ってしまったことで、それが入ってこなくなってきたのですよね。だから、私達も防衛策として、株価が下落しだすと、一斉に焦って売ることになるのです。買い物が無くなってしまえば、本当に売れなくなってしまいますから…。以前なら、株価がスッと下がっても、少し待っていれば、空売り筋の買い戻しが入ってきたものでしたけど、これがあまり期待できなくなってしまったというのが現状です。
● 今度は、"株価対策"という面からも考えてみましょう。私が感じるに、現在の株式市場の需給悪化要因の大きな部分は、国内法人筋の株式持合い解消の売りです。これまで10年、20年と金庫に静かに眠っていた株券が、突如亡霊のように市場に売りとして出てきています。当然、需給は崩れますよね。これまでは流通しない前提だった株式なんですから。毎年、毎年、数兆円単位で株式が市場に放出されている状態が、かれこれ数年続いています。さらに、これがすぐに収まる気配は一切ありません。これだけ需給悪化要因が根強く残っていれば、「空売り規制で何が変わるか!」という感じです。何も変わりません!
● 空売りはいずれ買い戻しにきます。持ち合い解消売りは、絶対に買い戻されません。少なくとも今後数年は、持ち合い解消した同じ株式を、再び買うということはないと思います。多分、10年、20年経てば状況も変わるでしょうが、この景気と資金効率を考えた場合、やはり日本の法人は株式を保有し過ぎました。好況の時なら気にならないかもしれませんが、不況の時のマーケットにとっては、本当に重たい売り圧力です。
● という訳で、"空売り規制強化"は、"株価対策"になったかと聞かれれば、全く効果はないと答えざるを得ません。ただ、最後に自分で自分に反論するみたいですが、空売り規制やアップティックルールの適用は、世界的なマーケットとして信頼感を勝ち得るには必要な方策だと思っています。その意味では、動機に不純さと胡散臭さが大いにある点は反吐がでますが、マーケット整備という点では、今回の措置も是認できるものだと思います。"株価対策"としてやって欲しくなかったということです。
この日記帳をお読みになり、何か御意見・御感想がございましたら、ぜひE-Mail下さい。
このホームページにて、ご発言のチャンスをご提供することを、お約束致します。
![]()
ご意見・ご感想はお気軽に《 tora_shishizaあっとyahoo.co.jp 》まで
("あっと"を"@"に置き換えてください)
© Copyright 1998 Tora-Doshi'no Shishiza, All Rights Reserved.